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7 裏切り者は許しちゃおけねえ

2008.06.24 - 侠客国定忠次一代記

 島村の伊三郎は紋次の縄張りである境宿を狙っていたが、表立った動きはなかった。

 伊三郎の子分たちが市にやって来て騒ぎを起こす事もなく、紋次の賭場はいつも賑わっていた。紋次も子分たちに伊三郎の縄張り内に出入りする事を禁じ、喧嘩する事も禁じた。

 紋次の子分になって二年が過ぎ、忠次の顔も売れて来た。

 何か騒ぎが起こる度に、文蔵と一緒に飛び出して行っては揉め事を解決してやった。絹市の取り引きのいざこざ、酒の上の喧嘩騒ぎ、すりや盗っ人、ゆすり、たかり、下らない夫婦喧嘩に至るまで、騒ぎが起これば、それを解決してやるのも百々一家の仕事だった。騒ぎを治めれば、それ相当の礼金が貰えるので、二人は誰よりも早く現場に急行した。

 文蔵は相変わらず、伊三郎の縄張りに行っては素人衆の賭場を荒らして小銭を稼ぎ、木崎宿の女郎屋に通っていた。しかし、忠次は付き合わなかった。お町がいるので、女郎屋に行く必要はなく、また、母親から言われた『弱い者いじめはするな』という言葉を守っていた。

 お町は忠次が帰る度に、名主の家から嘉藤太の家に通っていた。兄の所に行くと言えば名主は信じてくれたが、とうとう、忠次と会っている事がばれてしまい、猛反対された。以前のお町だったら口答えもできず、名主の言いなりになったが、今のお町は違う。名主の家を飛び出して実家に帰り、兄と一緒に暮らし始めた。

 忠次は暇さえあれば、昼夜を問わず、お町に会いに行っていた。かといって、お鶴の事も忘れていたわけではない。お鶴のもとにも時々、帰っていた。

 お鶴はお町の存在を知っていた。お町に再会した日、嘉藤太の家に行ったきり帰って来なかったので、お町と一緒にいたに違いないと悟っていた。当然、お町との事を泣きながら怒ったが、別れるとは言い出さなかった。

 忠次の気持ちとしては複雑だった。

 お鶴と別れて、お町と一緒になりたいが、お町はお鶴のように母親と一緒に養蚕や機(はた)織りをするような女ではなかった。忠次としてもそんな事をさせたくはない。お鶴には今のまま、母親の面倒を見てもらい、お町には、後に一家を張った時、姐(あね)さんとして子分たちの面倒を見てもらおうと都合のいい事を考えていた。最近は、お鶴も諦めたのか、お町の事をあれこれ言う事もなく、お町もお鶴と別れろとは言わなくなり、忠次は二人の機嫌を取りながら交互に通っていた。

 市の立つ二日、七日、十二日、十七日、二十二日、二十七日の六日は忙しかった。

 境宿には西の上市、中央の中市、東の下市と三ケ所に市場があり、順番に市を立てていた。紋次の賭場も三ケ所あり、上市の開かれる上町の煮売茶屋、伊勢屋の二階、中市の開かれる中町の質屋、佐野屋の離れ、下市の開かれる下町の煮売茶屋、大黒(だいこく)屋の二階がそうだった。市が立つのは一ケ所でも、賭場は三ケ所で開いていた。初めの頃は市の立つ町の賭場だけを開いていたが、一ケ所だけでは間に合わなくなり、開催する市場に関係なく三ケ所で同時に開くようになった。さらに、市の立たない日は下町の料理茶屋、桐(きり)屋で賭場を開帳していた。

 伊勢屋は境宿の新五郎、佐野屋は柴宿の啓蔵、大黒屋は木島村の助次郎とそれぞれの代貸が賭場を開いた。親分の紋次は大切なお客が来た時だけ顔を出して挨拶をした。市のない日、桐屋は新五郎と助次郎が交替でやり、啓蔵は柴宿の賭場を受け持っていた。その他、各村々で開く小さな賭場は親分の許しの出た子分たちが手のあいている時に開いていた。

 忠次と文蔵は代貸(だいがし)の新五郎と行動を共にする事が多く、市の立つ日はいつも伊勢屋の賭場にいた。新五郎が客の銭を駒札(こまふだ)に替え、中盆(なかぼん)の矢島村の周吉が丁半の駒札を揃えて勝負を進行させ、淵名(ふちな)村の岩吉が壷(つぼ)を振った。文蔵と忠次、山王道(さんのうどう)村の民五郎の三人が客のためにお茶を出したり、煙草盆(たばこぼん)を勧めたり、客のための雑用をする。客同士が喧嘩した時、仲裁したり、手入れがあった時に真っ先に客を逃がすのも役目だった。そして、三下奴の富塚村の角次郎と八寸(はちす)村の才市が外に立って見張りをした。

 文蔵と忠次は小さな賭場を開帳する事はまだ許されていなかった。素人衆に安全に遊んでもらうためには、まず、雲助どもを相手に修行を積まなければならない。気が荒く、すぐにカッときて暴れ、負ければ銭を払わずに夜逃げしてしまうような雲助たちをうまく扱えるようにならなければ、一人前とは言えなかった。文蔵と忠次は親分から、賭場開帳の許しが貰えるように、毎日、汗臭い人足部屋で壷を振っていた。

 保泉(ほずみ)村の久次郎と茂呂(もろ)村の孫蔵が交替にやって来たので、忠次と文蔵はお仙の店で一杯やってから、女の所に行こうとした。

 人足部屋を出て中庭の井戸で顔を洗っていると、三下奴の上中(かみなか)村の清蔵が血相を変えて駈け込んで来た。

「兄貴、兄貴、大変(てえへん)だ!」

 清蔵は息を切らせてハアハア言っていた。

「何が大変なんでえ? また、どっかで喧嘩でもおっ始まったんかい?」

 忠次が文蔵と顔を見合わせた。

「そんなんじゃねえんすよ。代貸の啓蔵さんが伊三郎んとこに行っちまったんすよ」

「なに、殴り込みを掛けたんか? 場所はどこでえ?」

 文蔵は長脇差をつかんで今にも飛び出しそうだった。

「違う、違う、そうじゃねえんです。代貸がみんなを引き連れて、伊三郎の子分になっちゃったんすよ」

「何だと? 代貸が伊三郎の子分になっただと? おめえ、寝ぼけてんじゃねえのか?」

 文蔵は清蔵の襟(えり)をつかんで、聞き返した。

「本当なんです。今日、柴宿の若松屋に伊三郎がやって来たんです。俺は止めたんすけど、佐助の兄貴が通せって言うんで、仕方なく通したんです。それからしばらくして、お客さんがぞろぞろ出て来て、賭場を閉めたらしいんですけど、上で何をやってんのか俺には分かりませんでした。兄貴に見張ってろと言われたまま、俺はずっと下にいたんです」

「伊三郎は一人だったんか?」

「いえいえ、貫録のある子分を三人連れてました」

「おい、それでどうしたんでえ?」

「へえ、半時(はんとき)くれえしてから伊三郎が出て来て、代貸がぺこぺこしながら見送りました。その後、代貸に呼ばれて、俺は今から島村一家の代貸になったって言われたんです」

「何だと? 嘘じゃねえんだんべえな?」

「ほんとですよ」

「野郎、許せねえ!」

 文蔵は清蔵を突き放すと、眉間(みけん)にしわを寄せて長脇差を腰に差した。

「おい、それで、柴に行った連中はみんな、裏切りやがったんか?」

 今度は忠次が清蔵の襟をつかんで聞いた。

「へい、みんな、伊三郎から盃(さかずき)を貰ったって。それで、おめえはどうするって聞かれたんです」

「おめえは断ったんだんべえな?」

 文蔵が物凄い形相で睨んだ。

「へい、断りました。みんなの目付きを見て、半殺しにされるかもしれねえと思ったけど、俺はきっぱりとちゃんと断りました。そしたら、三下奴を殴ったら島村一家の恥になると言って帰してくれたんです」

「島村一家の恥だと? くそったれが!」

 文蔵は首にぶら下げていた手拭いを地面にたたき付けた。

「親分には言ったんだな?」と忠次は清蔵の襟から手を放した。

「へい。代貸の新五さんが柴宿に殴り込みを掛けるって言ってました」

 文蔵は勢いよく飛び出して行った。

「畜生! 大変な事になっちまったな。伊三郎の奴は本気で百々一家を潰す気でいるぜ」

「兄貴、俺は何があっても兄貴に付いて行きますから」

「おう」

「兄貴‥‥‥」

 清三は泣きべそをかいていた。

「よくやった。よく断ったぜ」

 忠次は清蔵の肩をたたくと、文蔵の後を追った。

 裏切り者を許しちゃおけねえと新五郎がすぐに殴り込みを掛けると言い張ったが、親分の紋次は許さなかった。明日は市日だった。代貸の啓蔵がいなくなったからといって、啓蔵が預かっていた佐野屋の賭場を閉めるわけにはいかない。殴り込みを掛ける前に、明日の事を考えるのが先決だった。

 武士(たけし)村の惣次郎が新たに代貸になり、佐野屋の賭場を預かる事に決まった。伊与久村の鶴八が中盆、忠次が壷を振る事になった。文蔵も伊勢屋の賭場で壷を振る事になり、啓蔵たちがいなくなったお陰で、二人の身分は昇格した。裏切り者は許せなかったが、壷振りになったのは嬉しかった。

 市の賭場も無事に終わり、次の日の早朝、新五郎を先頭にして、子分十人が武器を手にして柴宿に向かった。忠次も文蔵も鉢巻きに襷(たすき)掛け姿で長脇差を差し、槍を担いで勇ましく出掛けたが、武士の渡しから先へ行く事はできなかった。十手を持った伊三郎が大勢の子分を引き連れて、八州様と共に待ち構えていた。悔しいがどうしようもなかった。広瀬川を渡った時点で、全員、捕まってしまう。

「くそっ! 出直しだ」

 新五郎は歯を食いしばりながら、皆を引き上げさせた。

 それから二日後、忠次が桐屋の賭場で壷を振っている時、新五郎は親分に内緒で文蔵と孫蔵を連れて柴宿に殴り込みを掛けた。しかし、啓蔵らは旅に出てしまって誰もいなかった。賭場を開いていた若松屋の回りには伊三郎の子分が五人も見張りをしていて、近づく事はできない。

 文蔵は賭場荒らしをして、伊三郎の代貸をたたっ斬ってやると聞かなかったが、新五郎は止めた。

「親分の事を考(かんげ)えるんだ。俺たちゃ伊三郎の代貸を殺して、しばらく旅に出りゃアいい。だがな、残された親分はどうなるんだ?」

「くそっ! 伊三郎の奴は仕返しをするに決まってる」

「そうだ。奴は十手を振りかざして、俺たちの事を聞きに来るに違えねえ。十手持ちがウロウロしてりゃア、お客人だって安心して遊べねえ。賭場に客が来なくなったら、百々一家は潰れちまうんだぜ」

「それじゃア、一体(いってえ)、どうすりゃいいんでえ? このままじゃ、武士からこっちは伊三郎のくそったれに取られちまう」

「今は我慢するしかねえ。境の賭場さえ安泰なら、百々一家が潰れる事はねえ。悔しいが、じっと我慢するしかねえんだ」

 その事件があってから、紋次親分は酒浸りとなった。信用していた子分に裏切られたのが余程、悔しかったとみえて、大酒を飲んでは気を紛らせていた。

 百々一家の縄張りは狭くなってしまったが、返って、一家の結束は堅くなり、境宿は絶対に伊三郎には渡さないと皆、心を一つにしていた。裏切り者は許さねえと息巻いていた者たちも啓蔵たちがいつになっても戻って来ないので、いつしか忘れるようになって行った。忠次と文蔵は壷振りになって、以前よりずっと忙しくなったが、その分、稼ぎもよくなり、弟分を引き連れては得意顔で遊び回っていた。

 翌年の五月、親分が大酒を食らう事件がまた起こった。前回と同じく、市の立つ前日だった。

 忠次がお町と会って、いい気分で帰って来ると、親分の前に代貸の新五郎と中盆の岩吉が渋い顔をして座り、その後ろに文蔵、久次郎、孫蔵、民五郎、才市、角次郎がうつむきながら並んでいた。三下の宇之助と清蔵が土間にかしこまっていたので、忠次は清蔵に何があったのかを聞いた。

「二人の代貸が伊三郎のとこに行っちゃったんです」と清蔵は小声で言った。

「何だと? 二人の代貸が‥‥‥」

 忠次は改めて、部屋の中を見回した。確かに木島の助次郎と武士の惣次郎の姿はなかった。

「親分、二人の代貸が裏切ったってえのは本当なんですか?」

「本当だ」と答えたのは新五郎だった。

 いつもなら先頭に立って、殴り込みだと威勢のいい新五郎も今日はやけに静かだった。

「どうするんですか?」

「どうもこうもねえ。これしかいねんだぞ」

「これしか? ここにいねえ奴らはみんな、裏切ったんですか?」

「そうだ」と岩吉が忠次を睨んだ。

「おめえも裏切ったと思ってたんたぜ。この大事(でえじ)な時にどこ行ってたんでえ」

「ちょっと‥‥‥」

「ちょっとだと?」

「今は内輪揉めしてる時じゃねえ」と新五郎が岩吉をたしなめた。

「明日の賭場をどうするかだ」

「どうしょうもねえな」

 親分が煙草の煙を吐いた。煙までもが情けなく見えた。

「助次と惣次を裏切らせた伊三郎の事だ。すでに、大黒屋と佐野屋にも話をつけてるに違えねえ。今頃、騒いでも遅えわ」

「伊三郎の奴らが境に入(へえ)って来るのを見逃せって言うんですか?」と新五郎が親分に詰め寄った。

「しょうがあるめえ。これだけの人数で伊三郎相手に出入りはできねえ」

「親分、泣き寝入りしろって言うんですか?」

 岩吉は半ば、泣いていた。

「一番頼りにしてた助次の奴まで裏切るたア、余程、俺に甲斐性がねえとみえる。おめえたちは裏切らねえでくれよ」

 そう言うと親分は部屋から出て行った。その背中がやけに弱々しかった。

 新五郎も岩吉も何も言わずに帰って行った。

 いつの間にか、しとしとと雨が降っていた。

 忠次たちも無言のまま、若者部屋に引き上げた。

「兄貴、一体、どうするんでえ?」と忠次が文蔵に聞いた。

「どうもこうもねえ。畜生め、助次の兄貴も惣次の兄貴も裏切った奴らはみんな、たたっ斬ってやんなきゃ気が済まねえ」

「啓蔵兄貴のように、もう、ずらかっちまったんじゃねえんですか?」と久次郎が情けない顔して言った。

「くそっ! このままじゃ、百々一家は潰れちまうぜ」

「そんな事ア、分かってらア」

「伊三郎を殺(や)っちまうしかねえんじゃねえのかい?」と忠次は文蔵に詰め寄った。

 回りにいた子分たちが顔を上げて忠次を見た。

「駄目だ」

 以外にも文蔵は話に乗って来なかった。

「新五の兄貴と一緒に俺は何度も伊三郎の奴を殺ろうとしたが駄目だった。奴はいつも大勢の子分に囲まれていやがる。それに、腕の立つ用心棒を連れていやがって、手を出す事ができねえんだよ」

「くそっ、汚え野郎だ」

「あのう」と三下の清蔵が遠慮がちに口を出した。

「俺っちにはよく分かんねんだけど、どうして、みんな、伊三郎んとこに行っちゃうんですか?」

「銭に目が眩(くら)むんだんべえよ」と吐き捨てるように文蔵が言った。

「それに、十手が欲しくて行った奴もいるだんべえ」

「銭に十手ですか‥‥‥」

「伊三郎の奴はな、銭と十手の力で勢力を広げて来たんだ。奴の代貸たちは小せえながらも一家を張ってた親分どもだ。奴らにしてみりゃ、伊三郎の傘下(さんか)に入(へえ)った方が勢力を広げられると二つ返事で子分になったんだ。うちの親分も声を掛けられたがきっぱりと断った。二足の草鞋を履く奴なんざ、渡世人じゃねえと言ってな。親分は筋の通らねえ事は大嫌(でえきれ)えなんだ。ところがよう、裏切った奴らは筋目よりは欲目を取ったってえわけさ」

 夜遅くまで、今後の対策を考えていたが、結局、いい考えは浮かばなかった。伊三郎は殺さなくてはならないが、今は時期が悪い。伊三郎が油断するまで待とうという事になった。

 次の日、伊三郎の子分たちは当然といった顔付きで境宿にやって来て、大黒屋、佐野屋、そして、桐屋の三ケ所に賭場を開いた。百々一家の賭場は伊勢屋の一ケ所だけになってしまった。

 紋次親分は市の開催中は堅気の衆に迷惑が掛かるので、伊三郎の子分たちと面倒を起こすなと厳命した。文蔵も忠次も境の町中を伊三郎の子分どもが、でかい面して歩いているのを見て、はらわたが煮え繰り返る程、悔しかった。しかし、親分から騒ぎを起こしたら縁を切ると言われているので、歯を食いしばって我慢をした。

 その日は何も起こらなかったが、次の日、山王道の民五郎が伊三郎の子分に囲まれて袋叩きにされた。カッときた文蔵と忠次が長脇差をつかんで飛び出そうとして新五郎に止められた。

「兄貴、もう黙っちゃいられねえ。奴らをこのまま、のさばらせといたら百々一家はみんなの笑い物(もん)だ。境にいる伊三郎の子分どもは片っ端からたたっ斬ってやる」

「馬鹿野郎! 伊三郎の企(たくら)みに乗るんじゃねえ」

 新五郎は両手を広げ、厳しい顔をして二人を睨んだ。

「何です、その企みってえのは?」

 文蔵は負けずに新五郎を睨んだ。

「伊三郎は俺たちがカッときて、伊三郎の子分の誰かを斬るのを待ってるんだぜ」

「どうして、兄貴にそんな事が分かるんだ?」

「伊三郎の魂胆はうちの一家をぶっ潰す事だ。おめえたちが伊三郎の子分を斬りゃア、伊三郎の奴は得意顔で十手を持って、ここにやって来るんだぜ。おめえたちがいりゃア、当然、おめえたちは捕まる。江戸送りになって獄門(ごくもん)だ。おめえたちが旅に出ていなけりゃ、奴の事だ、誰か身代わりをしょっ引いて行くだんべえ。誰が捕まったにしろ、銭を積まなきゃ放しちゃもらえねえ。首代は三十両ってえのが相場だが、伊三郎の奴は三十両じゃ首を振るめえ。まず、一人は見せしめとして江戸送りにされるだんべえな。そして、次から次へと捕まえて、仕舞いにゃア、伊勢屋の賭場をふんだくって、百々一家を境から追い出すってえ魂胆だ。伊勢屋を失った百々一家なんてえのは、放って置いても自然に消滅しちまうだんべえよ」

「畜生! それじゃア、俺たちゃどうしたらいいんでえ?」

 文蔵は地団駄を踏んで悔しがった。

「今は我慢するしかねえんだよ。奴らに何をされてもじっと我慢するしかねえんだ。伊勢屋の賭場だけは何としてでも守り通すんだ」

「いつまで、我慢すりゃいいんです?」

 忠次が声をあらげて聞いた。

「そんな事ア、分からねえ」

 新五郎は厳しい顔のまま首を振った。

「くそったれ!」

 文蔵は立て掛けてある薪(たきぎ)の桑の枝を思い切り蹴飛ばした。

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